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人工未知霊体タルパが招く災厄『拝み屋怪談 鬼神の岩戸』 [本・コミック]

郷内心瞳さんの
『拝み屋怪談 鬼神の岩戸』を
読みましたので、その感想です。

拝み屋怪談 鬼神の岩戸 (角川ホラー文庫)

拝み屋怪談 鬼神の岩戸 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 郷内 心瞳
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/06/15
  • メディア: 文庫


一部、ネタバレを含んでいるかも
しれませんので、その点に関しては
ご了承ください。

今回の怪談集は、郷内さんいわく、
悪い何かにとり憑かれ、
悪い何かに魅入られた人々の
実体験を選り抜き、怪談に仕立てた
ものだそうです。

それゆえに、一つ一つの怪談が、
おぞましく、決して気持ちのいい
ものではありません。
凶悪な犯罪の話を聞いてしまった時の
ように、読後の印象がザラッとしている。
重たい何かを背負ってしまったような、
そんな感じです。

物語の主人公というか、主軸となるのは
表紙にも描かれている、紫色のワンピース
を着ている女性になります。

1017_1.jpeg

これまでも、郷内さんの怪談の中には
魅力的な女性の怪異が語られてきましたが、
今回の怪異は、これまでと違った側面を
持っていると感じました。

古くから、人の手によって作られた
怪物の悲劇というものは、数多く存在
しますよね。

例えば、フランケンシュタインや、
鋼の錬金術師でキメラにされたニーナ。
あるいは、鉄腕アトムや新造人間
キャシャーンなんかも、当てはまるかも
しれない。
最近では、メイドインアビスのミーティ
なんかも、グサーッて胸に突き刺さる
重さがありましたね。

いずれも、本人が望まない形で異形の
者と成り果ててしまったが故に、
その葛藤に苦しむ姿が、見ているものに
生命とはなんぞや?倫理観とはなんぞや?
と、ある種の不快感を伴って訴えかける
のだと思います。

その不快感の根源は、少なからず、
同じ人間が持つ利己的な感情を、
共感せずとも、理解できてしまう
ことから生じる、嫌悪感だと思うの
です。

今回の「鬼神の岩戸」で語られる
紫色のワンピースを着ている女性も、
そんな悲劇を背負った一人なのです。


物語のキーワードは、ずばり「タルパ」です。

これまで僕は、「タルパ」という言葉や
それが指し示すものが何であるかを
知らなかったんです。

だから、今回の「鬼神の岩戸」で、
桐島加奈江が郷内さんが作り上げた
タルパである、と断言されたことに、
正直、戸惑いを覚えました。

これまで、僕の中では、桐島加奈江は
規格外の化け物であり、到底、世の中の
概念に当てはまるべき存在ではないのだ
と思っていたので、それが、タルパ
という一言で片付けられてしまうことに
非常に違和感を覚えたのです。

もちろん、タルパの中でも桐島加奈江は
規格外なのだと思うので、タルパの
一種ではあっても、別物なのかも
しれないのですが。

タルパの存在を是としてしまうと、
怪異や幽霊に対して、違った解釈が
取れるようになりますよね。

それは、未知のものを、科学的に証明して
結論付けてしまう行為にも似ている
ように思うんです。

例えば、UFO。
未確認飛行物体が、宇宙人の乗り物かも
しれない、と思っていたのに、いやいや
あれは雷が起こした現象の一つだよ、
などと説明されてしまうと、途端に
興醒めしちゃいますよね。

そんな事実、知らないままで、
「自分はUFOを見たんだ!」
という体験を信じていたほうが、
幸せでいられるように思えるんですよね。

怪異にしてみても、
見方を変えてしまうと、いわゆる
幽霊と呼ばれるものは、自分が作り上げた
タルパかもしれないし、誰かが作り上げた
タルパかもしれないし、みんなで作り上げた
タルパかもしれない、ということです。

これは、「鬼神の岩戸」のエピソードの
一つ、「あなたたちの罪」を読んで
もらえると、なるほどー、と思って
しまうのですよね。

例えば、柳の木の下に現れる幽霊という
典型的なテンプレートのような怪談も、
タルパの仕業なのかもしれないわけです。

もちろん、それが全てではないだろうし、
タルパの概念で片付けられない怪異が
あることも認めますが、なんていうか、
人為的に作り上げられたものが、幽霊や
怪物の正体でした、という事実が衝撃的
だったわけです。

ただ、タルパが生み出される背景には、
生み出す本人(主人)が、意図している
場合と、そうでない場合がある、という
違いがあります。

郷内さんのタルパ、桐島加奈江や、
本書のヒロイン小橋美琴のタルパ、麗麗
に関しては、本人(主人)が、現実世界で
受けたいじめや、両親の死による絶望的な
境遇の中で、わらにもすがるような思いで
救いを求めた結果として、生み出された、
いわば、心の拠りどころ、だったわけです。
(桐島加奈江に関しては、郷内さんが
 その認知を変えてしまったので暴走した
 わけですが)

1017_2.jpeg

一方で、悪意を持って、もしくは、
みだらな気持ちで、意図的に生み出される
タルパもあるらしく、それがもっとも厄介
なようです。

どのように厄介かと言えば、タルパを
生み出してみたものの、いらなくなった
から消したいと思っても、うまく消せない
ことがあるようなのです。

例えば、なかなか恋人の出来ない人が、
妄想で、理想の彼氏・彼女を思い描いて、
結果、タルパを生み出したとします。

しかし、現実世界で、本物の異性が好きに
なり、晴れて結ばれることもあります。

そうなると、もう、自分が生み出した
タルパは用済みとなり、むしろ邪魔な
存在になってしまうのです。

タルパにしてみれば、これまでご主人様
の都合のいいように相手をされて、
なんとか、ご主人様に好かれようと
振る舞ってきたのに、突然、「いらない」
「消えてくれ」と言われるわけですから
たまったものではありませんよね。

ゆえに、行き場を失ったタルパが
どうなるかというと、暴走してしまう
わけです。

暴走したタルパは、異形の存在なので、
幽霊のように見えたり、実際に存在する
人間のように見えたりするらしいです。

また、タルパ自身にも、何かしらの
自我があるようなので、こうなって
くると、いわゆる、一般的に語られる
幽霊との線引きも、難しくなって
きますよね。

幽霊だって、この世に残してきた
怨念や悔恨などの思念が、何かしらの
形を伴って存在する(と解釈してます)
ものですから。

そうなってくると、本当に怖いのは
やはり人間そのものってことになる
わけで、そういった意味では、今回の
「鬼神の岩戸」は、そういう人間の
愚かさが招いた事件簿なんですよね。


ちなみに、今回「鬼神の岩戸」ですが、
郷内さんのこれまでの著作が、
クロスオーバーするような構成になって
います。

「怪談始末」「逆さ稲荷」「来たるべき災禍」
「うつろい百物語」そして、「花嫁の家」
を事前に読んでおくと、それらが今回の
物語の伏線となっているように感じられて
より一層に楽しめるかと思います。

郷内さんも自身のツイッターの中で
以下のように、おっしゃっていました。

https://twitter.com/shindo_gonai/status/1017802009007669248


また、「鬼神の岩戸」に収録されている
最後の話「ビヨンド」は、実は「花嫁の家」
の続編のプレリュードになっています。

そうなんです!
「花嫁の家」にまつわる呪縛は、まだ
終わっていなかったのです。

ドラマ拝み屋郷内の試写会に行ったときに、
郷内さん自ら、「花嫁の家」の
続編を執筆中とおっしゃっていました。

早ければ、今年中には刊行されるかも
しれません。

実は、「花嫁の家」は電子書籍しか持っていない
ので、ぜひ紙の書籍にて復刊を希望します!

郷内さんいわく、
そのためには、新装版の『怪談始末』が
売れる必要があるみたいです。

https://twitter.com/shindo_gonai/status/1048419272257490945


もしかしたら、もしかするかも?
いやいや、おそらく、すでに復刊の準備に
入っているのではないでしょうか??
期待してます!

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拝み屋怪談 鬼神の岩戸 (角川ホラー文庫)

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  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/06/15
  • メディア: 文庫
href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4041056055/sanagin-22/ref=nosim" target="_blank">拝み屋怪談 来たるべき災禍 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 郷内 心瞳
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/06/17
  • メディア: 文庫



拝み屋怪談 禁忌を書く (角川ホラー文庫)

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  • 作者: 郷内 心瞳
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/07/23
  • メディア: 文庫



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  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
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  • メディア: 文庫



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  • メディア: 文庫



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