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「田舎怪異百物語」と「山寺グラフィティ」の奇妙なリンク [本・コミック]

田舎怪異百物語

宮城で拝み屋を営む郷内心瞳さんの実話怪談です。
タイトルの「田舎怪異」ですが、田舎(いなか)の怪異(かいい)
と書いて「いなかい」と読みます。
洒落がきいていて、なかなかいい語呂合わせだと
思いました。

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郷内さんの著書は、これまでも読んできましたが、
短編ものと、長編ものに分かれます。
今回の「田舎怪異百物語」は、短編ものです。
田舎にまつわる怪談が、百話収録されています。

短編ものなので、だいたい、2~3ページに収まる話が多く、
隙間時間を利用して、パラパラと読み進めることができる
ので、通勤時間や昼休み休憩時間のお供にぴったりです。

特に今回は田舎を舞台にした怪談ということで、のどかな
田園風景や、広い屋敷などの情景が頭に浮かぶことが多く、
どこか懐かしいような郷愁の想いを馳せる感じでした。

怪談と一口に言ってみても、ただ単に怖さを煽る話ばかり
ではなく、時には不可解な事象であったり、怪談という
よりは、それってUMAの目撃談じゃ・・・?みたいな話など
バラエティに富んでいます。
時には、思わず「ぷっ」と吹き出してしまう話も(怪談なのに)

ただ、どの怪談も、似た話を聞いたことが無いんですよね。
それでいて、ものすごく独創的というか。
個人的に、この本の中で気に入っている怪談は
「ポコポコスナック」という怪談です。

ある日、道端で、見たことも無い自動販売機があり、
その自動販売機では、ポコポコスナックというスナック菓子が
10円で売られており、買って食べたところ尋常でない美味しさ
だった・・・
というような怪談です。もちろん、ちゃんとオチもあります。

荒唐無稽で、思わず「はぁ?」ってなってしまうような怪談
なのですが、もしこれが創作なのだとしたら、たいした
想像力というか、文才があるなぁ、と感心します。

例えば、何か創作でいいので、怪談を考えてみてください
と言われても、ポコポコスナックというネーミングや、
自動販売機の怪異という発想はなかなか思い浮かばない
のではないでしょうか。

そう考えてみると、こういう細かな設定や描写はどこから
来るのか?というところに行き着くわけです。
ましてや、怪談の語り手が、どこにでもいるような、一般の
人だったりするわけです。

実際に、その目で見て、肌で感じたことを、ただ単に
そのまま語っているだけなんですよね。

実話怪談の怖さって、そういうところにあると思うんです。
あり得ない話のように思えるのだけれども、実際に体験
したことを語っているのだから、それは、あり得ること、
あり得る世界なんだと。

現実世界と、非現実世界の境界が曖昧になっていく
危うさみたいなものを、ひしひしと感じる恐怖。
そんな田舎にまつまる怪談が百話も収録されています。

でも、単純に怪談を百話集めました!っていう内容でも
ないんです。そこは郷内心瞳先生の構成の妙とでも
いうのでしょうか。

今回の本では、「旧青木邸の怪談会」という、定期的に
開催される怪談会での怪異を主軸に、百物語が展開
されています。
そして、「旧青木邸の怪談会」で起こる怪異を、郷内さんが
解決に導くまでの物語にもなっています。

読後の爽やかさといったら!感無量です。
怪談で爽やかって言うのも、変ですが(笑)

しかし、この恐怖から解き放たれて爽やかな晴れ渡る
感じって、どこかで味わったことがあるんですよね。
なんだっけかなーって、しばらく考えていたら、一つ
思い当たる物語がありました。

藤子・F・不二雄先生の短編漫画で「山寺グラフィティ」
という作品はご存知でしょうか?

幼なじみの女の子が若くして亡くなったのだけれども、
ある日、その女の子そっくりの女性が主人公の男の子
の前に現れます。しかも、成長して大人になった姿で。
彼女は果たして実在する人間なのか?それとも・・・
という感じで、なかなかのホラーテイストで物語が
進んで行くのですが、これがまた、意外な結末で、
読後の爽やかさといったら、たまらないんですよね。

以下、ネタバレを含みます


郷内心瞳先生の「田舎怪異百物語」の「旧青木邸の怪談会」
と、藤子・F・不二雄先生の短編漫画「山寺グラフィティ」の
共通点は、どちらも結末が怪異の元凶となっている女性の
結婚式を行うことで、供養とする点にあるんです。

奇妙な一致というものもあるものですよね。
気になったので、「山寺グラフィティ」について、少し調べて
みたところ、面白いことが分かりました。
この作品に登場する「山寺」は、山形県山形市にある
「立石寺(りっしゃくじ)」という実在する寺院なんだそうです。

ん? 山形県!?

あわてて「田舎怪異百物語」を読み返してみました。
「旧青木邸の怪談会」の解決策として、郷内さんは
死霊婚を行うことを思い付きます。
それも、「山形県村山地方」に古くから伝わる風習で、
ムカサリ絵馬という故人と架空の伴侶を絵に描いて額装し
それを寺へ奉納することで、故人の叶わなかった婚儀を
成就させて供養とすることを!

これだ!まさにこれだ!

「山寺グラフィティ」に山寺、立石寺も山形県村山地方に
あるので、藤子・F・不二雄先生はムカサリ絵馬を用いた
死霊婚をモチーフに、こけし人形を用いた供養の場面を
描いたんだ!

大好きな作品が、こういう形でリンクするとは思っていな
かったので、なんか嬉しいですね。
もしかすると、郷内さんも、藤子・F・不二雄先生の
「山寺グラフィティ」を読んだことがあって、それが
「旧青木邸の怪談会」の供養の発想につながっている
とかだと、素敵なんだけど、それは勘ぐり過ぎかな?

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