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世界は驚きと発見に満ちている [本・コミック]

染色家 坪倉優介。
何かのテレビで、この人が背負った人生を見て、もっと
知りたいと思い、この本を買って読みました。

記憶喪失になったぼくが見た世界 (朝日文庫)

記憶喪失になったぼくが見た世界 (朝日文庫)

  • 作者: 坪倉優介
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2011/01/07
  • メディア: 文庫


坪倉さんは18歳の時の交通事故で、全ての記憶を失い、
その後、奇跡的な回復によって、現在は染色家として活躍
されています。

「奇跡的な回復」と言いましたが、本当に奇跡としか
言いようがないんですよね。
喪失された記憶が復活したわけではなく、そこで一度
リセットされて、新たな記憶が構築されていく様子は、
興味深く、そして感動的です。

例えが悪いかもしれませんが、鉄腕アトムのように
心を持ったロボットが実際にいると仮定して、その
ロボットが、世界の一つ一つの事象を学習していくかの
ような感じなんです。

そう、どこかSFのようでもあり、おとぎ話のようでも
あります。

初めは、生きているものと、そうでないものの区別すら
ついていません。つまり、人間とぬいぐるみの区別が
付かないということです。
坪倉さんにとっては、どちらも同じ物体でしかないのです。

だから、自分が人間だという認識もないし、当然、自分の
家族や友達の認識もありません。

また、生きるために何をしたらよいかということも分かり
ません。例えば、「お腹がすく」ということも分からな
ければ、「食べる」ということも分かりません。
だから、放っておいたら、何もせずに、その場所にじっと
しているだけで、しまいには餓死してしまうでしょう。

赤ちゃんであれば、お腹がすいたらミルクが欲しいと
泣くし、うんちが出たら、気持ちが悪いと泣きます。
泣くことで、感情を伝え、生きようとします。

でも、「泣く」という行為自体を忘れてしまった人間は
どうしたらいいのでしょう。「死にたくない」とか
「生きたい」という心を失ってしまった人間は、どうやって
生きていけばいいのでしょう。

この本は、そんな再生の記録を、一つのドキュメンタリー
として綴っています。そこには、計り知れない困難と、
苦労が坪倉さんのご家族や本人にあったかと思います。
けれど、その苦しみを綴ったものではなく、あくまでも
坪倉さんがその目で見て、感じたことを淡々と綴っている
ことが印象的です。

そして、坪倉さんの手記を通して、この世界が驚きと
発見に満ちているということを、追体験させてくれます。

こんなエピソードがありました。

アズキを入れたご飯は赤い。カレー粉を入れたご飯は
黄色い。赤いご飯や黄色いご飯はあるのに、どうして
青色のご飯はないのだろう?

確かに、青色のご飯は見たことも食べたこともないです
よね。もしかしたら、青色というのは、自然な色では
ないのかもしれません。だから、青色=毒のような
イメージがあるのではないでしょうか。

でも、お菓子には、青色の食べ物ってありますよね。
坪倉さんは、青色のご飯がどうしても食べたくて、カキ氷の
ブルーハワイ味のシロップを使って、実際に青色のご飯を
作りました。

炊飯器を開けた時の感動を、こんな風に形容しています。

白い湯気の向こうに見えた青いご飯は、まるで白い雲の
向こうに広がる青空のようだった。

坪倉さんは、変化を恐れずに、変化を楽しんでいるように
思います。染色家としての道を選んだ理由の一つに、
世界は驚きと発見に満ちているという感動を表現したかった
ということもあるのではないかと思います。

僕らが「当たり前」だと思っていることが、本当は
「当たり前」ではないのかもしれません。
固定観念が生きる幅を狭くしていることも、結構あるの
ではないかと思います。

この本には、前向きに生きるためのヒントのようなものが
隠されているように思います。

記憶喪失になったぼくが見た世界 (朝日文庫)

記憶喪失になったぼくが見た世界 (朝日文庫)

  • 作者: 坪倉優介
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2011/01/07
  • メディア: 文庫



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